さよならマミー〜おわりに

2019年3月5日

夜明けのアンタナナリボ

カールトンホテルの部屋の窓から見る早朝のアヌシ湖とアンタナナリブの街並

さよならマミー

カーテンを開けると、灰色の雲が煙みたいに遠くの丘の上を流れていく。2007年12月31日。とうとうマダガスカルとお別れする日がやって来た。明け方まで降っていた雨に、アンタナナリブの街並はしっとり包まれ、鏡のように静かな湖面には、もうすぐ役目を終える街灯が映っている。

「おはようございます」

出発時刻の午前5時半にロビーに降りると、マミーはすでに、入り口のドアーの前に立っていた。いつものさわやかな笑顔で。

もう明日からこの優しい青年に会えないんだと思うと、遠い町に転校してしまう小学生のような、切ない感情がこみ上げてくる。

 

         アンタナナリブ空港に到着 / 国際線出発ロビーの様子 / 手荷物検査場の手前。ここでマミーとお別れだ

 

ホテルから空港へむかう道は、まだ早朝ということもあって、すがすがしいくらいすいていた。車窓から見える収穫の終わった道路脇の田んぼに、一面薄いピンク色の睡蓮の花が咲いている。

「そう言えば、わたしたちがノシベへ行ってるあいだマミーは休暇だったの?」

わたしは急に思い出してマミーに聞いてみた。

「いいえ、違いますよ。仕事してました」

「仕事ってガイドの?」

「ええそうです。あの日イルカさんたちを見送ったあと、日本から到着した女性2人組を出迎え、そのまままたペリネへ行ったんです」

ひえ~~、そんなハードな!

マミーの話しによると、その時はモーニングサファリで雨が降って、インドリは見えなかったらしい。もともとのスケジュールでは、わたしたちもその日にペリネでモーニングサファリをおこなう予定だった。人生は何が幸いして何が不幸をもたらすかなんて、わからないもんだねーー。フォールドーファンで足止めになったからこそ、わたしたちは快晴のペリネの森でサファリができ、インドリをばっちり観察することができたのだ。

期待していない結果になっても、怒ったり悔しがったりしてはいけない。

何があっても「ありがたい」と感謝して受け入れることが大切なのだ。

そうすれば想像もしない方法で、期待以上の結果になってかえってくるだろう。

 

       マダガスカルの郵便ポスト / 出発ロビーのみやげものショップ / 為替の両替所

 

空港に到着すると、マミーはいつものようにてきぱきとトランクから荷物を降ろし、カートを押して出発ターミナルへ向かう。マダガスカル航空のカウンターで搭乗手続きをおこない、次に手荷物検査場へやって来た。あまりの手際よさに、まるでマミーもわたしたちといっしょに同じ飛行機に乗って日本へ来るんじゃないかと思えてしまう。

「マミーはいっしょに飛行機の乗らないの?」

ここでお別れだって知ってるリュウが言う。

「わたしは一緒には行けません」

「いっしょに日本へ来ればいいのに!」

リュウが半べそをかきながら涙声で言う。

「マミーはここに家族がいるし、お仕事があるから日本へは行けないんだよ」

そう言うわたしも涙声になっている。ありがとう。こんなすてきなガイドといっしょに回れたから、ますますマダガスカルが好きになった。

「わたしもこの1週間、みなさんとご一緒できて本当に楽しかったです」

マミーとかたい握手をかわした後、出国ゲートの手前でもう一度振り返る。

「バイバイ、マミー!元気でね!」

「お気をつけて!」

「きっとまた来る、きっとまたここへ戻って来るから」

「楽しみにお待ちしてます。ボクたちも元気でね」

それからわたしたちは建物の外に出て、雨が上がった滑走路を歩き、飛行機に乗り込んだ。

早朝の雨霞を切り裂くように離陸したマダガスカル航空010便は、すぐにぐんぐん上昇し、睡蓮が咲く棚田たちもあっと言うまに雲の下に隠れて見えなくなった。

 

さよなら星のアドレス

文明の最果てに昇る月~マダガスカル子連れ旅行記 完