【パンガー湾アドベンチャーツアー子連れ体験記】シーカヤックで海中鍾乳洞探検&ジェームズボンド島観光

2019年6月16日

パンガー湾アドベンチャーツアーへ出発

サワディークラッ!マリンスポーツ歴40年、東南アジアへの渡航歴50回以上。今回は小2と小5の子連れ家族でちょっと変わった個人手配プーケット旅行に来ています。滞在6日目の今日はパンガー湾アドベンチャーツアーに行ってきます。シーカヤックで海中鍾乳洞を探検したりジェームズボンド島を見たり、お楽しみ盛りだくさんの1日になりそうです。

パンガー湾アドベンチャツアーがおすすめ

パンガー湾は、プーケット島の北西に位置する大きな入り江。湾内には、石灰岩でできた160余りの島々が点在し、それらが柱や杭のように海から突き出ている。ほとんどが無人島で、名前さえ付いていない。およそ1万年の歳月をかけ形成された、この世にも奇妙な風景をひと目見ようと、世界中から多くの観光客が訪れる。

パンガー湾ツアーには、大型ボートで景勝地をクルージングする周遊タイプと、シーカヤックで海中洞窟やマングローブの入り江を探検するアドベンチャータイプがある。好奇心旺盛な小学生くらいのお子さんがいる子連れファミリーには、アドベンチャータイプがおすすめ!シーカヌーで奇岩が取り巻く海上に漕ぎ出し、パンガー湾の大自然に触れる経験は、一生の思い出になるだろう。

一方、周遊タイプでは、湾の北部にある水上集落を訪れて買い物や食事を楽しむ時間が組み込まれているものが多い。お子さんがまだ未就学なら、こちらのタイプでも十分楽しめる。ちなみにパンガー湾は、1981年4月29日にタイの海洋国立公園に指定された。今日はいよいよ、その楽しみにしていたパンガー湾シーカヤックツアーに出発する。

とりゃぁぁ~~!!

ピックアップが遅れる

6時45分に起床し、朝食をすませてから。8時15分にホテルの正面エントランスへ降りる。山の斜面の一番下にある正面エントランスには、車の進入路があり、ホテルの送迎車やタクシーが待機している。まだ朝早いのに、日差しは強烈だ。今日もこれから気温がぐんぐん上がるだろう。「早く海に飛び込みたい」と言うこどもたち。絶好のクルージング日和だね。

ツアーのピックアップ予定時刻は8時15分~30分の間だったが、時間を過ぎても送迎車は現れない。日差しを避けて、正面エントランスの無人ロビーのソファーに腰掛けて待っていると、ようやく1台のミニバンが車寄せに入って来た。

「遅くなってすみません」

ガイドが降りて来て車のドアを開ける。額にはうっすら汗。「おわび」をする時のささやかな演出はとても大切だ。まあ、この場合、本当の汗なんだろうけど。ミニバンの車内には、イギリス人の4人家族とオーストラリア人のカップルが乗っており、わたしたちが乗ったらすぐに出発。プーケット島を北上し、一路島の北西にあるポー港を目指して走り始めた。

パンガー湾への行き方

パンガー湾への行き方は2つあり、ひとつは今回のわたしたちのように、プーケット島北西のポー港まで車で移動し、そこからスピードボートでパンガー湾をめぐる方法。プーケット島南部からポー港まで車でおよそ40~50分、ポー港からパンガー湾/ジェームズボンド島までは、船でおよそ1時間40分程度。

もうひとつの方法は、パンガー県のクラソム港まで車で移動し、そこから船で周遊する方法。プーケット島南部からクラソム港まで車でおよそ2時間、クラソム港からジェームズボンド島まで、船でおよそ30~40分。

2つの違いは、陸路の移動時間が長いか、海路の移動時間が長いか。わたしたちは、ポー港から船に乗ったので、海路の移動時間が長いツアーだったが、パンガー湾は内海のため、年間を通じて非常に穏やかで、船が揺れたり船酔いの心配は全くなかった。

わたしたちが参加した「シーカヌーツアー」では、訪れる島がパンガー湾の南部、つまりプーケット島寄りに位置しているので、ポー港から出港するのが一般的のようだ。一方、パンガー県のクラソム港から出港するツアーでは、帰路に、洞窟内に造られたスワンクハ寺院に立ち寄ることが多い。

ポー港から出港

ポー港

ポー港に到着しミニバンから降りる / 桟橋の様子

さてホテルを出発し、およそ40分で島の北西にあるポー港に到着。桟橋にはたくさんの船が泊まっており、さらにたくさんのツアー客でごった返している。車を降りて桟橋で名前を告げると、「あの船に乗りなさい」と指示された。日差しが照りつける桟橋を歩き、船の入り口でツアー料金を払う。

ボートは2階建てで、2階が屋根の付いた展望デッキ。中央に大きなテーブルがあり、船のエッジ沿いにイスがずらっと並んでいる。1階の方はスタッフの居室とトイレ、キッチン等がある。1階の先端にもスペースがあり、見晴らしがよくて気持ちがいい。時々波がかかりますが。

遊覧船の様子

乗船して2階デッキに上がる / 2階デッキの様子

今日のツアーの参加者は、およそ50名程度。日本人はわれわれの他に2組の家族連れが参加していた。そのうちの1組は埼玉から来ている4人家族で、夏休みにもプーケットに来たとおっしゃっていた。その時もパンガー湾ツアーに参加したが、とてもよかったのでまた参加したとのこと。夏は雨期なので天気が悪かったそうだが、今回は信じられないくらい天気がよくて、同じプーケットでも時期によってこんなにも違うのかと驚いておられた。

じゃあ全員船に乗り込んだらいざ出発!

パンガー湾クルージング

パンガー湾

船はプーケットの港を出たあと、ひたすら湾内を北上する。最初はプーケット島の海岸沿いのリゾートホテルなどが見えていたが、次第に視界から遠のき、やがて、前方の海上に、巨大な柱のような島影がいくつも見えてきた。

おお~~、きたきたきたぁ~~!さすがに生で見るとすごい迫力だね☆

デッキからパンガー湾を眺める子ども隊

ギターをつま弾くスタッフ / ライチのようなフルーツ。美味しいよ / パンガー湾の写真を撮るゲスト

出発してしばらくすると、クルーの紹介と今日のツアーの説明があり、それからフルーツやウェルカムドリンクがふるまわれる。甘くて美味しい南国のフルーツをほおばりながら、眩しい日差しに目を細める。柔らかな海風が頬をかすめ、潮の香りが旅情をかき立てるパンガー湾クルージングだ。

ジェームズボンド島名前の由来

ジェームズボンド島で写真撮影

舞台は香港、タイ、シンガポール。石油価格が高騰する中、エネルギー危機解決の切り札と期待される太陽熱エネルギー装置「ソレックス・アジテイター」をめぐり、熱いバトルが繰り広げられる。これは新興国経済の発展により、資源価格が急騰する現在の話しではない。今から36年前、全世界で上映されたイアン・フレミング原作、ガイ・ハミルトン監督の映画「007/黄金の銃を持つ男」のストーリーだ。

時は第1次石油ショックのただ中にあった1974年。映画で敵役ボスのアジトがあるという設定で登場したのがパンガー湾だった。ロケで使われた島は、現在は007シリーズの主人公の名をとって「ジェームズボンド島」と呼ばれ、パンガー湾観光の目玉となっている。掌に島が乗っているように撮した写真が人気だ。

ちなみに「007/ゼロゼロセブン」英国秘密情報部エージェントのコードネームで初代ボンド役をつとめたのはショーンコネリー。

ロングテールボートで上陸

ロングテールボートに乗り換える

ロングテールボートに乗り換えて上陸する / 上陸した先には露店が並ぶ

ポー港を出港してから1時間20分あまり経った頃、前方にひときわ迫力のある島が見えてきた。海面から垂直にそそり立つ巨大な岩肌。その中程にある裂け目のようなところに小さな砂浜が見える。どうやらここから小型のロングテールボートに乗り換えて、あの砂浜に上陸するようだ。

船の1階に降りてボートに乗る順番を待つ。ロングテールボートはその名の通りものすごく細長く、なぜか屋根が付いている。側面をまたぐようにボートに乗り移るのだが、乗ったらさっと端へよらないと、傾いてひっくり返っちゃうんじゃないかとハラハラしてしまう。

わたしたちが乗るとボートは船を離れ、断崖絶壁の岩肌の真下へ進む。何もそんな肩身の見の狭いポイントを目指さなくても、もっと広い場所があるだろうにといぶかしんだが、上陸して合点がいった。砂浜にはお店がずらっと並んでいるため、ボートが接岸出来る場所がないのだ。

鍾乳洞探検

カオピンガン島の鍾乳洞

カオピンガン島に上陸 / スパッと裂けたような鍾乳洞の入り口 / 洞窟に入ってみよう

ボートを降りると左手の砂浜にずらりと露店が並んでいるのが見える。どのお店にも007に登場した島の絵はがきを売っているけど、はて?肝心のその島はどこにあるんだろう?露店沿いに歩いて行くと、砂浜がだんだん広くなり、正面の巨大な岩壁に大きな穴が開いているのが見えてきた。なんじゃこりゃぁぁ~!

入り口の案内板を読むと、どうやら鍾乳洞のようだ。鍾乳洞の入り口は巨大な岩の板が2枚重なり合っていて、どちらかがずれると、崩れてしまいそうに見える。その大きな穴の中へ吸い込まれるように砂浜が続いている。この島の正式名称は「カオピンガン島」。タイ語で「寄り添う」という意味だ。大きな岩が支え合って重っているこの鍾乳洞の入り口を指しているらしい。

「あの中に入ってもいい?」

さっそく目をきらきらさせながら洞窟探検に走るこどもたち。洞窟は奥へ行くほど狭くなっていて、こどもたちの冒険心をくすぐる。どんどん奥へ進むと、壁に窓のような穴が開いていてそこから海が見えたりする。石灰岩が巨大なつららのようにいくつも垂れ下がり、探検ムードを盛り上げる。雨で石灰質を含んだ水の雫がぽたぽたと垂れ、それが気の遠くなるような長い歳月を経て、大きなつららみたいになったんだよ。

「へーー?!」

小さな水滴がこんな大きな岩のつつらになるなんて、信じられないといった顔だ。

鍾乳洞を探検する子ども達

子どもは親の姿を見て育つ

最近、こどもたちの理科の学力低下が指摘されている。学校の先生の中にも理科が苦手という先生が多いらしく、授業での実験がうまくいかないと言う。理科は実体験を通じないと理解しにくい教科なので、そのことがこどもの理科離れをますます助長している。理科に強い子を育てるには、日常のちょっとしたことでも、好奇心を持って親子で話し合うコミュニケーションが大切だ。

料理でも、洗濯でも、散歩の途中でも、「なぜだろう?」と不思議に思うことは、日常生活のいたるところに転がっている。それを当たり前と見過ごすのではなく、疑問に思うことから、自然や化学への探究心が育まれていくのだ。

夜はなぜ暗いの?

紅茶に入れた砂糖はどこへ消えるの?

どうしておたまじゃくしに手足がはえてカエルになるの?

電話で遠くの人とお話できるのはなぜ?

時間はいつ始まったの?

好奇心の強いこどもを育てる子育てのツボは、親自身がいつもいろんなことに興味を持って生活することだ。子どもは親の姿を見て育つのだから。

鍾乳洞の一番奥

違う景色が見えた

さて、鍾乳洞の突き当たりまで進んだら、歩いて来た道を引き返す。

「え~~、違う道はないの?」

子ども達にはどうも同じ道を2度通るのは損と考える傾向があるようだ。はっはっは、そんなことないぞ、来た時と同じ道だって、逆向きに見たら違う景色が見れるもんだ。そう言いながら、言ったわたし自身が驚いた。

カオピンガン島

鍾乳洞には所々窓のような大きな穴が開いていて外が見える / ここが行き止まり、洞窟の終点

「おお~~あんなところにあった!」

洞窟の入り口まで戻ってその先を見ると、砂浜に並ぶ露店の屋根の向こうに、007で有名なあの「ジェームズボンド島」が見えていたからだ。入った時は鍾乳洞の大きさに目を奪われていたからぜんぜん気付かなかったよー。

「ほ~ら、違う景色が見えたでしょ」

それからみんなで一斉に、その岩が一番良く見える場所へ駆け出す。

ジェームスボンド島とミニトレイル

島の反対側にあるミニトレイル

ジェームズボンド島をバックに撮影できるフォトジェニックポイントは大変な人気で、大勢の観光客が順番待ちで並んでいる。掌の上に島が乗っているように見えるポーズで撮影してみよう。2人で両側から手を差し出すポーズも面白い。島の前に中腰になって頭に乗せているように見える写真も人気がある。やっとわたしたちの番になり、子供達と何枚か写真を撮った。それから島の反対側にあるトレイルを少し歩いたりしてたら、出発の時間になった。

露店が並ぶビーチの先にあるボート乗り場からロングテールボートに乗って、わたしたちの船に戻ろう。からこれ40分あまりの滞在だったけど、鍾乳洞やミニトレッキングコースを歩けて、思わぬ楽しいひとときをすごしたのだった。

パンガー湾シーカヌーツアーのタイムテーブルと料金

料金は大人2100バーツ、子ども1300バーツ

料金に含まれるもの ホテル送迎、スナック、フルーツ、ソフトドリンク、コーヒー&紅茶、ランチ、ライフジャケット、英語ガイド、保険

  • 8:15~30 ホテルピックアップ
  • 9:30 ポー港出港/クルーズ開始
  • 11:20 ジェームズボンド島上陸観光
  • 12:00 船上にてビュッフェランチ
  • 13:00 ボン島にてシーカヌーに乗換え洞窟&ラグーン探検
  • 14:00 パナック島にてシーカヌーに乗換え洞窟&ラグーン探検
  • 15:00 無人島にてビーチ&カヌー遊び
  • 16:30 ポー港帰港
  • 17:30 ホテル到着

記念写真200バーツ、ビール80バーツ、カヌーガイドへのチップ100バーツは別料金。1バーツおよそ2.7円。

パンガー湾で船上ビュッフェランチ

遠ざかるジェームズボンド島

遠ざかるジェームズボンド島

「わぁ~美味しそう!」。ジェームズボンド島から船に戻ったら、2階デッキの大きなテーブルに、すでにたくさんの料理が並べられていた。大皿には、とりの唐揚げ、ぴり辛肉野菜炒め、チャーハン、オニオンフライ、魚の素あげあんかけソース添え、など食欲をそそる料理がてんこ盛り。おや~~おまけにトムヤンクンスープまであるぞ。

う~ん、いけません、どれもこれも美味しそうったらありゃしない。ランチはビュッフェなので、好きなものを好きなだけ取ってオッケー!ビールは有料(80バーツ)だが、ソフトドリンクは無料だ。じゃあさっそくいただきま~す☆

パンガー湾の船上でランチビュッフェ
ゲスト全員でテーブルを囲んでランチをいただく

こういう料理は、日本人には普段食べているモノと大きな隔たりがないので、食べやすくてありがたい。でもゲストの大半のヨーロッパの人たちは、あまり箸、じゃなくてフォークが進んでいないみたい。そうだよね、パンもチーズもパスタもなくて、普段食べているものとずいぶん様子が違うからね。

ヨーロッパやアフリカへ旅行した時は、われわれ日本人はちょっと大変だけど、今逆にヨーロッパ人のキミたちがその苦労を味わっているんだね。はっはっは、いけないけどなんだかスゴい優越感を感じますよー。最初に苦労を体験しておくと後が楽になる。その意味において子連れ旅行は、なるべくヨーロッパやアフリカ等苦労の多いところへ最初に行っておけばあとでアジアで楽できます。

ランチビュッフェの料理

日本人にはなじみのある料理

さてわたしたちが食事をしている間にも船は移動し、パンガー湾の南を目指す。前述したようにパンガー湾は内海なので年間を通じて非常におだやか。通常であれば、移動する船の上で食事をするなんて、船酔いするリスクが高いシチュエーションなんだけど、こんなに波もなくおだやかなら平気ですね。

食事が終わってデザートのフルーツや、名前は忘れたけど、タイの焼き菓子みたいなのを食べている時、クルーの1人、スワンに聞いてみた。見かけの年が40歳前後、この人なら20年前の「あのヒット曲」を知っているに違いない。

パンガー湾に浮かぶ島々

食事している間にボン島が近づいて来た

「ねーねー、20年くらい前にタイで流行っていた、こんな歌知らない?」

そう言って、カセットテープで何回も聴いたあの歌のメロディーを、鼻歌で歌う。するとなんか日本人が面白いことやっているぞ、と、4~5人のタイ人クルーたちがわたしのまわりに集まってきた。そして、全員が「その歌知ってる!」と叫ぶではないか!

やったーー、知ってらっしゃるのね~~。ぱっとわたしの心が明るくなる。でもそのあとが問題。みんな歌は知っているのに、中には歌詞を覚えてて歌える人までいるのに、歌の名前が思い出せないらしい。あんまり昔のこと過ぎて、覚えていないのだ。

「歌の名前は思い出せないけど、彼の名前は確かアリスマンだ」

スワンがぼそっと言う。あまりに小さな声だったので、それは波の華にまぎれてしまいそうだった。

「アリスマン?間違いないの?」

ヴィラゾリテュードのトンチャイと同じ答えが返ってきたので、私はさらに自信を深めた。

「ああ、間違いない。彼は今、歌手をやめて国会議員になってるよ」

「ええーー、何ですとぉーー!」

この20年の歳月の間に、不慮の病に冒されたとか、もう引退して普通に暮らしてるとか、誰もそんな歌手覚えていないとか、わたしなりに色んな答えを覚悟していた。その中で、政治家と言うのはほとんど予想していなかった答えだ。あんな美しいメロディーの歌を作った人物に最も似つかわしくない未来の姿だったからだ。

クルーのスワンと記念写真

スワンと一緒に

20年の歳月は、1人の人気歌手を政治家にしていた。考えてみれば、日本でも芸能人が政治家になることはあるから、そんなに驚くことじゃないのかもしれない。わたしの期待と想像がいかなるものであっても、アリスマンを探してたどりついた答えは、現在の彼は国会議員だという事実。

複雑な思いにふけっていると、スワンが紙とペンを取り出して、何やらメモを書き始めた。タイ語なので何て書いてあるかはわからないけど、どうやらこのメモを持ってCDショップへ行ったら、その歌が入っているCDが買えるらしい。「アリスマンの一番のヒット曲が入ったCDをこの人に売って下さい」みたいなことが書いてあるんだろう。

オオ~ありがとう!20年の歳月は、タイの国に著しい経済発展をもたらし、街の様子も人々の生活も、アリスマンの職業も大きく変えてしまった。その一方で、タイの人の優しさは、このパンガー湾の景色のように20年間変わらずにいたんだな。

微笑みの国タイ。

われわれを乗せた船は最初のシーカヌー探検ポイント、ホン島にゆっくりと近づいていった。

シーカヌーでホン島海中鍾乳洞探検ツアー

シーカヌーでホン島探検

「さあ、ホン島に到着しました」

スワンのかけ声で乗客はいっせいにおしゃべりを止め、船の前方に視線を移す。いよいよここからシーカヌーに乗り込んで、ホン島の洞窟探検に出発だ。パンガー湾ツアーのハイライトとも言えるアクティビティ。楽しみだけどちょっと不安そうな表情を浮かべる子供達を連れ1階に降りると、たくさんのシーカヌーが船のまわりに浮かんでいた。

おお~いつの間にこんなにたくさん集まったんだろう。

船のまわりに集まったシーカヌー

ルークのカヌーに乗り込むリュウ / アリフ登場☆

シーカヌーはゴム製で、2名1組づつになり順番に乗り来んで行くのだが、誰がどのカヌーに乗るかは決まっていない。指示もされないので、自分の順番になった時、偶然船に接岸したカヌーに乗り込むという具合だ。と言ってもこの偶然の持つ意味は結構大きい。

シーカヌーにはタイ人の漕ぎ手が乗っていて、その漕ぎ手のカヌーで、1時間ばかり洞窟探検をする。探検が終わったらいったん船に戻るが、その後別の島でもう1回探検をする。つまり合計2回のカヌー体験をいっしょにするパートナーということになる。しかも途中で写真撮影があるので(1枚200バーツ/別料金)たまたま乗ったカヌーのお兄さんが、へたをしたら一生我が家の写真たてに飾られる運命にあるのだ。

そんな大切なことが、このほんの一瞬の偶然の出会いで決まるなんて、考えてみたら面白いね。まるで人生の縮図のような出来事だ。

さて、我が家はママとカイ、わたしとリュウの2組に別れてカヌーを待つ。先にカヌーに乗ったのはママとカイ。ママたちのカヌーの漕ぎ手は、体育会系のがっちりした体つきのルークお兄さん。カヌーの漕ぎ方も上手で力もあるため、ルークのカヌーは海の上をすいすい滑るように進む。

「じゃあね、お先に」

ママたちがホン島へ向けて漕ぎ出した後、わたしたちのカヌーはどれだろう?と立っていると、髪の短いこれまた運動神経のようさそうなお兄さんの漕ぐカヌーが近づいてきた。

「これに乗るのか?」と思った時、「ハロー」と言いながらわたしとリュウに手を振ったのがアリフだった。聞けば年は14歳だと言う。14歳といえば日本では中学生じゃないか。国の事情が違うと言えど、一人前に仕事をしているなんてたいしたもんだね。アリフのさわやかな態度に感心しながら、それじゃわたしたちもいよいよ出発だ。

参考にしよう👍

海中鍾乳洞に突入

シーカヌーに乗り移る

前を進むママとリュウが乗ったカヌー / えっ、まさかあの穴に入るの? / ひゃぁぁ~、ものすごいスリル!

船から離れたカヌーは、前方に浮ぶホン島の巨大な壁を目指して進む。小さなカヌーから見あげると、ホン島の岩肌は海上から空に向かって垂直にそびえ立つ、巨大な岩の壁そのもの。その岩壁に近づいて行くと、水面すれすれの所に穴が開いているのが見えて来た。

「えっ、まさか、あそこに入るの!?」

シーカヌーで海中洞窟探検とは聞いていたけど、まさかアンタこんな見るからにデンジャラスなところですかーー!しかしわたしたちの躊躇なんておかまいなしに、カヌーは巨大な岩壁に開いた小さな穴めがけてぐんぐん突進してゆく。

や、ちょっと待って!

近づいてよく見ると洞窟の天井から、つららのような鍾乳石がぶらんぶらんと吊り下がっている。当たったら相当痛いぞ、ひえぇーー、こんなの聞いてねぇーよ!まず、ママとカイのカヌーが壁にあいた隙間のような洞窟に潜入。

「ひゃぁ~~!」

薄暗い洞窟の中にママたちの絶叫が響き渡る。

続けてわたしとリュウのカヌーも洞窟に突入。うひょぉぉ~~、これはたまらない。でも穴に入ってしまえば意外と内部は広いぞ。それによく見ると、洞窟内の鍾乳石は面白い形をしてる。中には本当の幽霊みたいな(って本当じゃない幽霊がいんのかーー!)形の岩や骸骨みたなのがあって、スリルの他にサスペンスも満載だ。ってどんなサスペンスじゃ!!

シーカヌーで海中洞窟に入る

海中洞窟を進む / だんだん暗くなってきたね / 寝っ転がらなければ天井に頭ぶつけちゃうよー

洞窟をさらに進むと、天井が次第に低くなってくる。そのうちボートに仰向けに寝ないと進めない状態になる。おまけに入り口からの光が遠ざかり、夜のように暗くなってきた。これじゃあ、鼻の頭を天井にこすってもわからないよ、ってわかりますよ、痛いから。

「いったいどこまで続くんだ、この洞窟」

リュウの不安そうな声が暗い洞窟の中を漂う。

鍾乳洞の先に見えたもの

海中洞窟の出口

おっ、出口か? / ウソー、こんなに広いラグーンがあるなんて

かなり穴の奥まで進んだのでそろそろUターンするのかと思った瞬間、真っ暗な洞窟の先にかすかな光が見えて来て、さらに進むとその光はだんだん大きくなり、それが洞窟の出口だということがわかるまでになる。え、この洞窟って、反対側に抜けれるの?ってトンネルになっているの?!

その光の出口をくぐり抜けたら、あら不思議!なんとそこには別の空間というか、神秘的なラグーンが広がっていたのだ!!

えーどうゆーこと?

つまり、岩壁の島の内部は空洞になっていて、今くぐってきた洞窟で外の海と内側のラグーンがつながっているのだ。内側のラグーンはとても静かでほとんど波もない。それもそのはず、外部の海とはあの細くてせまい洞窟でしか繋がっていないのだから。

今度はあの隙間をくぐり抜けるよ

その神秘的な秘密のラグーンをさらに奥へ奥へと進んでいくと、また別の洞窟があった。洞窟というよりは、鍾乳石の大きな橋の下をくぐるという感じだ。

島の中心のラグーン

ホン島の内側にあるラグーン

島の内側に現れた知られざる神秘のラグーン

その橋の下のアーチのようなところをくぐり抜けるとまた別のラグーンが現れる。ここはかなりの広さだ。いくつもの海中鍾乳洞をくぐり抜けたらこんなに広いラグーンに行き着くなんて、夢を見ているような気分だ。

周囲を高い絶壁に囲まれて、鳥でもない限り、地球上にこんな不思議な場所があるなんて、その存在を知る由もないだろう。

極め付けの狭い穴から帰還

ホン島の海中洞窟

いや、そこは無理でしょう / 海中洞窟のせまい部分 / 外側の光が見える出口付近

しばらくその広いラグーンを見学したあと、さらにシーカヌーで奥へと進む。するとラグーンの一番奥の壁に、またまた小さな穴が開いていて、まさかとは思ったがそこがさらに別の洞窟の入り口だった。いや、そこは入れないでしょう、いくらなんでも、と思ったが、ルークの漕ぐカヌーはおかまいなしにその穴めがけて突入してゆく。

わーー!絶叫とともにすっと穴の中に消えるママとカイのカヌー。

あ、入れたんだ。そう思った次の瞬間、わたしたちのカヌーもその穴めがけて突進。仰向けに寝っ転がって思いっきり背中をボートの床に当てる。ボートが壁にごりごりぶつかる。ゴム製のカヌーだから破けやしないかと、ハラハラしながら、でも大丈夫だった。

海中洞窟内の鐘乳石

海中鍾乳洞 / 頭蓋骨のような鍾乳石 / 鍾乳洞をカヌーで進む

一旦中に入ると、今度の洞窟はさっきのとは違い、先に進むほど穴が大きくなる。しばらく進むと前方に大きな出口見えてきて、そこから外の光が眩しく射し込んでくる。天井から吊り下がっている鐘楼のような鍾乳石を避けて回り込んだら、島の外側の海に出た。

海中鍾乳洞から外洋に抜ける

やったー、無事生還できたー!!

前方にわたしたちの船と、パンガー湾の雄大な景色が見える。探検が無事終わった安心感と、狭い洞窟から外に出た開放感が一挙に交差し、光を浴びた海原を渡る風がいっそう眩しく感じられる。

アリフにたっぷりお礼を言って、いったん船に戻るのだった。

ラワ島でシーカヌー(シーカヤック)体験

プーケットのラワ島でシーカヌー体験をする長男と次男
プーケットのラワ島で兄弟でシーカヌーを漕ぐ

洞窟探検が終り、全員船に戻ったら、パンガー湾を南下し、今度はラワ島を目指して進む。ラワ島という名前の島は、マレーシア東海岸にもあり、そっちの方が有名だ。マレーシアの東海岸にはレダン島はじめ、すばらしい状態の珊瑚礁が残るビーチリゾートが点在してる。ただ残念なことに、11月から3月くらいの間はタイフーンの季節で、ほとんどのリゾート施設が閉鎖されるため、この時期には旅行に行くことができない。東海岸のベストシーズンは春から秋にかけて。逆にその時期は半島の西側にあるランカウイやペナン、パンコール島が雨期になる。

エリア別旅行のベストシーズン・それ行け!冬西夏東の法則

もしマレーシア旅行を計画するなら、「冬休み/春休みは半島の西側、夏休みは半島の東側」と覚えておこう(それ行け!冬西夏東の法則)。ちなみにこの法則はタイではマレー半島の西側にあるプーケットと、東側にあるサムイにも当てはまるよ☆

マレーシアのラワ島と比べると、パンガー湾のラワ島は、ほとんど知られていない。無人島だし、ホテルもレストランもない。でもよく見ると、他の島は海から断崖絶壁がそそり立っているのに、この島には、小さいながらビーチがある。せっかく南国の海でクルーズをしているんだから、ちょこっとビーチにも寄って行こうか的なノリで、ここで時間を過ごすのも悪くはないだろう。

船から海へ飛び込む子ども達

ラワ島沖の海に飛び込む

船はラワ島の沖200メートルのところで停止し錨を降ろす。これから1時間ほど休息のビーチタイムだ。島まで、泳いで行くもよし、自分たちでカヌーを漕いで行くもよし。わたしたちはまず船から飛び込んで、それから岸まで泳いで行くことにした。

「ひゃぁ~~!」

2階のデッキから身を乗り出すと、思いのほか海面が遠く感じる。それもそのはず、陸上の建物なら3階の屋根に相当するくらいの高さだ。

「パパ、飛び込むよ、ちゃんとビデオ撮ってね」

空中でポーズを決めながら勢いよく海の上へ飛び出すこどもたち。この高さからだと、飛び込むと言うより、水面に突き刺さる感じだ。ナイフで柔らかな果物をストーンと切り落とすように、水の中に落ちていく。

「わぁー、これはメッチャ気持ちいい」

しばらくして、白い水の泡が広がる海面に顔を出し、口から潮水を吹き出しながら歓声をあげる。それから船に戻ってまた2階まで上がり、もう一度勢いをつけて飛び込む。ちょうど「世界の果てまで行ってQ」の「祭りシリーズ」で、いろんなポーズで飛び込む祭/競技を観たばかりなので、テンションが盛り上がっているのだろう。

ラワ島沖の海に飛び込む

シーカヤックやサッカーで遊ぶ

何回か飛び込んだあと、そのまま泳いで岸へ向かう。途中で潜ってもみたけど、このあたりは透明度が悪くて何も見えない。200メートルくらい泳いでラワ島のビーチに上陸した。

スタッフのお兄さんたちがサッカーをしていたのでしいっしょに入れてもらい、そのあとシーカヌーを借りて島のまわりをプチ探検する。さっきはカヌーを漕いでもらったけど、こうして自分たちで漕ぐのも楽しいね。この島にもホン島ほど大きくはないけど、鍾乳洞のトンネルがある。

小1時間ほど海やビーチで遊んだら出発の時間になった。さあ、次はいよいよ今日最後のイベント、パナック島シーカヌー探検だ!

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ラワ島のビーチ
スタッフのお兄さんたちとサッカー大会

子育てコラム~テレビと付き合うルール

「世界の果てまで行ってQ」が出たので、今回はこどものテレビ視聴についてお話しましょう。

我が家のこどもたちは、ほっておいたらいくらでもテレビを観てしまいます。テレビばかり観ていると、家族の会話の時間や、こどもたちの勉強時間がなくなってしまうので、我が家では時間管理の観点から、テレビと付き合うルールを設けています。

まず、基本的な姿勢は「ニュース以外は観ない」です。観ないことが前提ですから、あれもこれもと観る番組がとめどなく増えてしまうことを防げます。その上で例外として、「家族みんなで楽しめる番組」「こどもの教養や勉強に役立ちそうな番組」の中から数を選んで観てもいい番組を決めてます。このようにして決めた観てもいいテレビ番組は「ダーウィンが来た!」「週刊こどもニュース」「イナズマイレブン」「やべっち」「NHK大河ドラマ龍馬伝」「世界の果てまで行ってQ」です。同一時間帯や夜遅い放映の番組は録画して後日観ます。その他サッカーの国際Aマッチや、セロのマジックの特集番組など、不定期に放映しているものもたまに観ます。

ラワ島でシーカヤックを漕ぐ子ども達
パンガー湾ラワ島でシーカヌー遊びをする子供たち

それからテレビを観る時に気を付けていることは次のようなことです。

  • 我が家では就寝時間を午後8時(小学校高学年は9時)にしているので、その時間にかかる番組は基本的に録画して観る
  • 食事中はテレビをつけない
  • テレビから離れて観る、凝視しない(きょろきょろすることが視力悪化対策に有効です)
パナック島でマングローブの入り江探検

パナック島でマングローブの入り江探検

パナック島に到着したら、今日2回目のシーカヌー探検だ。そしてこれがプーケットで予定している最後のアクティビティとなる。今回の旅行は、シミラン諸島でシュノーケルをしたり、ドナルドダックロックに登ったり、ゾウ乗りサファリや、滝壺トレッキング、ラフティング、ミニゴルフ等々、様々なアウトドア体験に挑戦した。こどもたちが小学生になったので、ほとんど制約なしにやりたいことに挑戦できるのが嬉しい。どれもこれも本当に楽しかったね。ここまでやり遂げたこどもたちの顔が旅行前より少したくましく見える。

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パナック島探検に出発するため船の後方に降りると、すでにたくさんのカヌーが海上で待機していた。ルークとアリフのカヌーを探す。

「どこだろう」

「あ、いた、あそこ」

カイが指差す方向を見ると、ルークとアリフが並んで浮んでいるのが見えた。ほぼ同じタイミングで向こうもわたしたちに気付いたようで、ニコッと笑って手を振っている。それにしてもカイの目の良さにはあらためて驚かされるなー、さすがアフリカのサファリガイドを唸らせただけのことはある。

余談ですが、ぱっと一瞬で全体を把握する能力は訓練で高める事ができます。この訓練をおこなえば脳が活性化し、こどもは勉強の成績が良くなるし、大人は脳の老化防止に役立つぞ。さらに速読にも驚くような効果を発揮します。

ポイントは本を読む時

  1. 1字1字読むのではなく全体を見ること
  2. 内容を理解するのではなく、画像のイメージに置き換えて記憶すること

2~3日でも違いがわかるのでぜひ試してみて下さい。

さてゲストたちは順番にそれぞれのカヌーに乗り込んでいく。わたしたちの番になったとき、タイミングをはかってルークとアリフが近づいてきた。

「ハロー」

「またヨロシクね!」

「ハロー」

「え、もしかして2人は兄弟?」

「いいえ、違います。でも同じグループのお客様を乗せることは多いです」

なんだ~~、よく似てるから兄弟だと思ったよ。さりげない会話を交わしながら、わたしたちもさっきと同じように、ママとカイはルークのカヌー、わたしとリュウはアリフのカヌーに乗って、出発だ。

パナック島の海中鍾乳洞

2槽のカヌーが並走して、パナック島の断崖絶壁に近づいていく。さっきホン島であの狭い洞窟に入ったから、もうちょっとやそっとのことじゃあ驚かねーぞ。断崖絶壁の下までたどり着くと、時おり波に消えてしまう程小さな洞窟の入り口が見えてきた。

おや~~、さっきの洞窟と比べるとやけに小さくねーか?!

ルークとアリフはわたしたちのささやかな違和感などおかまいなしに、穴に突入する。洞窟の高さは1メートルもない、幅もカヌー一艘でぎりぎりだ。やっ、ちょっ、この瞬間はたまらなくスリルだね。穴に入って確信したが、やはりこの洞窟はさっきの洞窟よりあきらかに狭いうえ、ずいぶん長い。進むうちに何がどうなっているんだかわからないほど真っ暗になてきた。その特アリフが振り返って、懐中電灯を渡してくれる。

真っ暗なパナック島の海中鍾乳洞
真っ暗だぁー! / 懐中電灯だけがたより / やっと出口が見えてきた

「やったー!」「すげー!!」

こどもたちは懐中電灯を渡されて大喜び。漆黒の海底洞窟を、暗闇を照らしながらカヌーで探検するなんて、インディジョーンズみたい。も~こんなことしちゃっていいのぉぉ~~、そうなのぉぉ~~、って感じで、興奮しすぎて頭がおかしくなっちゃいそうー。

さっきのホン島で、もう洞窟探検はもう見切った、なんて心の中で思った自分が恥ずかしい。ものごとというのは何でも奥が深いですね。あ、洞窟だから当たり前かー。

それにしてもこっちを先に経験してその後であっちの洞窟という順番だったら、退屈だっただろう。このツアーは探検する順番までよく考えてあるということだ。暗闇がもうこのまま永遠に続くんじゃないか思った時、前方にかすかな光が見えて来た。どうやらやっと出口のようだ。

マングローブの入江

パナック島のラグーン
狭くて暗い海中洞窟を抜けた先には光に包まれた神秘的なラグーンがあった

暗く長かった洞窟を出ると、そこにはまた静かなラグーンが広がっていた。ラグーンの静けさや神秘的な雰囲気も、さっきのホン島のラグーンよりはるかにこっちのほうが上だ。いや、別にさっきのラグーンや洞窟がつまらないと言っているのではなくて、こっちのはそれほどすごいということ。

ずいぶん大きいラグーンだね

首が折れるくらい見上げなければ頂上が見えない程、高い岩壁に囲まれている。その分外界から隔絶された孤独感が強い。

高い壁沿いに進む

ここから見える外界のものといったら、空と雲と星だけ。例えて言うなら、ここは常に真上を向いている大きな天体望遠鏡だ。その鏡のような底に、わたしたちが来る何万年も前から、静かに佇んでいた美しいラグーン。

さらにラグーンの奥へ向かう

それを考えると、わたしち1人1人に起きるできごとなんて、例え当人にとっては窒息するくらい苦しいことだって、どうでもいいくらいちっぽけなことに思えてくる。

ラグーンに自生しているマングローブ
こんなところにマングローブが生えてるぞ!!

さらに奥に進むと、ソーダ水を溶かしたような色の海面に、マングローブの木が青々と茂っていた。

誰もその存在すら知らないこんな孤独なラグーンで、しっかり根をはって生きてる。人が見ているから立派に葉を茂らせているのではない。自分で海水のこの場所を選んだわけでもない。それなのに不遇を嘆くことも落胆することもなく、ただひたすら空に向かって枝を伸ばす。

狭いところは1列にすすむ

その姿は「生きる」ことの原点を問いかけているようにも見える。石油を燃やし電気を浪費する文明社会に生きるわたしたちは、あまりにも、ないものをねだり過ぎてはいないだろうか?

海中鍾乳洞の出口
出口へ向かう洞窟も真っ暗 / 垂れ下がっているのは鍾乳石だよ

すでにあるものに感謝すれば、その瞬間から人は誰でも幸せになれるのだ。

空と雲と星しか見えない、深い穴の底で、たくましく呼吸をするマングローブ。見上げると、真っ青な空を、イルカの形をした雲がふわふわと横切っていった。

海中洞窟の出口に垂れ下がる鐘乳石
おお〜どうやら無事生還したみたいだぞ

桟橋でお別れ

パナック島の洞窟探検から帰還したあと、船はおよそ30分くらいでプーケットに戻ってきた。船を降りて桟橋を歩いて行くと、テーブルのまわりに人だかりがあり、その前にアリフが立っている。

「写真はこれだよ」

そこにはわたしたちといっしょに写っているカヌーを漕ぐアリフがいた。この素晴らしい大自然を探検した記念に、ぜひその1枚を買って帰ろう。きっとこどもったちが大きくなっても、もしかしたらいつか家を出てステキな人を連れて戻ってくる日まで、その写真は我が家のリビングに飾られているに違いない。

ポー港の桟橋でお別れ
船を降りた桟橋でツアーの写真を販売している / いい写真だ / ありがとう!アリフ

「ありがとう、おかげでとても楽しかった。最高の1日だったよ」

ルークとアリフにお礼を言って、長い桟橋を車に向かって歩く。少し傾き始めた午後の日差しが、プーケット島の空から舞い降りて、こどもたちの背中をやわらかく照らしていた。

涙のリクエストディナー

涙のリクエストディナー

家族旅行にはお金がかかります。4人家族なら、単純に計算して1人旅の4倍のお金がかかります。家族全員の時間/スケジュールを調整するのも大変です。そんなにお金と時間をかけて旅行に行くのだから、旅行中におこるどんな出来事も、どん欲に楽しまなければ損ですよね。たとえ、脂汗がにじみ出るようなピンチでも、口から胃が飛び出す程のトラブルでも。

「旅行」を「人生」に置き換えて考えるとどうでしょうか?

人生はアドベンチャー旅行

わたしたちは、何か、ものすごい代償を払って「この世の人生」を旅行をしているのだとしたら?突拍子もなく思われるかもしれませんが、少しの間、わたしの空想をお話することをお許し下さい。わたしは、あの世というのは、何でも願いがかない、つらいことやいやなことが一切ない世界だと思っています。

でもちょっと想像してみて下さい。それは素晴らしい世界ですが、そこで過ごす日々はとてつもなく退屈な毎日ではないでしょうか?だから、時々、人は刺激を求めて旅に出る。

どこに?

不便さと、手に汗にじむスリルと、ピンチを体験できる夢のアドベンチャーテーマパーク、「この世」に!つまり、人生というのは、たいくつなあの世の人が刺激を求めてやってくる豪華な旅行なのではと思うのです。

出発前に、気の合う仲間と、父親の役とか、恋人の役とか、それぞれ役割を決めて、その記憶をいっさいなくして、この世に旅にやってくる。そこで旅人は、裏切りや憎しみ、悲しみ、肉体の痛み、心の傷、勇気、友情、喜び、愛、等たくさんの刺激を体験する。

旅行が終わって全員があの世に帰ったら、ビデオでも観るみたいに、刺激たっぷりだったこの世のアドベンチャー旅行をみんなで鑑賞して楽しむのです。

その料金がいくらなのかわかりませんが、そう考えると、人生というアドベンチャー旅行の最中にいるわたしたちは、起こることすべてをありがたく受け入れて、こどものように好奇心いっぱいのココロで、楽しみたいと思うのです。

最後のディナー

ディナーの料理

パンガー湾のシーカヌーツアーから戻ってきて、こどもたちは夕食の時間までプールで遊ぶ。はっはっは、さんざん今日も海で泳いだだろうにまだもの足りないのか~~。まあ今夜がプーケットですごす最後の夜だから好きにすればいいけど。

その間ママと私は、本や雑誌を読んでごろごろ。夕方から雨雲が出てきて小雨がぱらつき始めた。そのせいか、今日はセミの鳴き声が心なしかおとなしい。夕食の時間になり、しめった草木の香りが立ちこめる中、小走りでレストランへ向かう。

ライトアップされたレストラン
カツ丼♪ / ココナッツアイスクリーム♥

グリル180に着くと、なんとお客はわたしたちだけ。貸し切りですか。メニューから選んだ今夜の料理は、タイ風シーフード焼きそば、カツ丼、さるそばと天ぷらのセット、とんかつ、きつねうどん。なんとなく日本食オンパレードの夕食になりました。大人も子供もそろそろ日本食が恋しくなる頃だね。

料理が運ばれてくると同時にライブ演奏が始まった。わたしたちしか客がいないのにですかーー!何と言う贅沢でしょう。

でも1曲終わるごとに盛大な拍手をしなければならないプレッシャーに襲われる。だって他に拍手する人がいないのだから。わたしもカラオケで熱唱した後、拍手がなかったら寂しいもんねー。ってお前のカラオケといっしょにするなー!拍手をしていたら、歌手がステージからマイクを握って「何かリクエストがあればどうぞ」と言う。ええ~~、急にそんな事言われても予想だにしてなかったから、すぐには思いつかないよ~。まさか石川さゆりの天城越えなんて知らないだろうし。

ディナーのライブ演奏
スワンの書いた紙を見せるリュウ

「GReeeeNがいいんじゃない」

さもいい歌を思いついたと言わんばかりに、横からリュウが口をはさむ。

「知るわけないだろうー、ここタイだよ、もし知ってても日本語で歌うの難しいんじゃねー」とカイ。

2人の会話を聞いていたら、パッと明暗がひらめいた。

「そうだ、アリスマンのあの歌をリクエストしよー、ゼッタイ知ってるよ」

今日のパンガー湾ツアーでクルーのスワンに書いてもらったあの紙~アリスマンの一番の代表曲~を渡したらきっとわかるだろう。これはナイスアイディア☆★☆★ステージはレストランから1階分降りて、ぐるっとまわって橋を渡った先にある。さっそくリュウが紙を持って伝令に走る。うぉーー!やったぞ、思いもかけない形でわたしの長年の夢がかないそうだ。それもプーケット最後の夜に、ママやこどもたちといっしょに、こんなステキなディナーの席で、わたしたちだけのために演奏してくれるという夢のようなシチュエーションで。

わはははは、すげー、ちょーサイコーオレ!と雨の夜空にガッツポーズした直後、予想だにしていなかった言葉が返ってきた。

「すみません、この歌は知ってるけど歌えません」

「えぇぇ~~何ですとぉぉ~~!」

「わたしはシンガポール人なんです。このライブのためにタイに来ていますが、タイ語の歌は歌えないんです」

あちゃーー、こんなどんでん返し!20年に渡る願いが最高の形でかなうと思われたその瞬間、指の隙間から砂がはらはらこぼれるように、十中八九手にした夢がわたしの手からすり落ちてゆく。

オ~のぅぅ~~、ちょっと待ってプリーズ、ひどいじゃないか、ひゅーまさん、ってこの人を責めるのはオカド違いだ。歌えないもんは仕方ない、そもそもこの人は、わたしがその歌を20年も聞きたかったなんて知るよしもありませんし。

「何か他にリクエストはありませか?」

申し訳なさそうにマイク越しに話しかけて来る。めまぐるしい展開に頭が混乱して(コンランショップは丸の内と新宿にあります)アイディアが浮ばない。う~んどうしよー、焦れば迫るほど何も浮ばなくなる。

その時ふと、サイモン&ガーファンクルの「ボクサー」のフレーズが頭をよぎった。アリスマンを歌えないなんてウソだ、というショックが「ボクサー」のさびのパーツと繋がったのかもしれない。そんなことは知るよしもないシンガポール人の彼は

「おーとても素晴らしい歌です。わたしも大好きです」

そう言ってギターの弦をつま弾き始めた。

Lie la lie …Lie la lie …

やわらかな雨がミストシャワーのように降り注ぐ2008年の年の暮れ。プーケットの山中のリゾートホテルに、涙のリクエストの美しメロディーが響き渡る。

こうして、プルシアンブルーの通り雨に包まれながら楽しかったプーケットとお別れの夜がふけてゆくのだった。明日はいよいよプーケットとお別れだ。

この記事があなたの子連れプーケット旅行の参考になったならとても嬉しいです。

それではまた世界のどこかでお会いしましょう!

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