馬車に乗ってスフィンクスの謎に迫る

2019年2月22日

「お疲れさん、暑かったでしょう~」

カフラー王のピラミッドから外に出ると、ロイとキャシーが笑顔でわたしたちの「生還」を迎えてくれた。

「いや~暑いし階段はきついし。でもおかげで、外がものすごく気持ちよく感じれる」

スフィンクス

カフラー王のピラミッドから生還するも

と言っても、ピラミッド内部から出て「涼しい」と感じたのはほんの一瞬。ギラギラ照りつける太陽の下を、カフラー王の駐車場まで歩く間に、もう目がくらむほどの暑さを感じていた。

駐車場の入り口で馬車を待つ

                      駐車場の入り口で馬車を待つ

さっきバスを降りた駐車場まで戻るってみると、わたしたちのバスがない。バスはすでにスフィンクスのほうへ出発したあとのようだった。

ん~~おいてきぼりかーー。

一瞬不安が頭をよぎったが、いっしょにいるヤッシュはあのポーズをしていない。もし本当においてきぼりをくらったのなら、いちにもににもまずヤッシュが、腰の高さに両手を広げて抗議のポーズをとるはず。ところがヤッシュは平然とした顔つきで、駐車場への入り口へ向かっている。そのあとをついて行って理解できた。どうやらわたしたちは、ここから馬車に乗って移動するようだ。

おお~~

こんなところで馬車に乗れるとは、メチャクチャ素敵きじゃないか。

こどもたちも様子が飲み込めてきたみたいで「馬車に乗るの?」と興奮気味。ロイたちも「おお、これは思わぬラッキーだね」と、アナハイムエンジェルスがさよなら逆転勝ちしたような喜びの顔で笑っている。ロイたちと知り合ったのはほんのちょっと前だが、そのわずかな間に、トラブルや苦行やラッキーを一緒に体験したわたしたち。そこにはある種の親近感というか仲間意識みたいなものが芽生えていた。

やっと馬車に乗れる子ども達

                      やっと馬車に乗れるぞ

ヤッシュの猛抗議

ところが、馬車に乗れるという幸運をつかんだことが、人生の勝利をつかんだように勝ち誇った気持ちになった矢先、またどんでん返しが待っていた!ヤッシュが親しそうに馬車のおじさんと話していたので、てっきりその馬車の乗るものとばかり思ってたのだが、突然馬車のおじさんが何か言って、遠くの方へびゅーんと走り去っていったのだ。

ええ、何があったの?とあっけにとられて見ていると、ヤッシュはおじさんを猛ダッシュで追いかける。そしてもう追いつけないとあきらめたところで立ち止まって、腰の高さで両手を広げて、怒ったファラオのように叫び始める。

おお、ヤッシュ、気落ちはわかるが、またそのポーズを見せてくれたね。ありがとう、ってそっちかい!!

それからヤッシュは道路を走っている馬車やタクシーを手当たり次第に捕まえる。でもすぐ無視される。そしてその度に両手を広げる抗議のポーズをとる。こんな暑い中、長袖、長ズボン、ネクタイといういで立ちで私たちのために一生懸命がんばっているヤッシュには申しわけないのだが、そのカラ回りっぷりがおかしくってたまらない。

ヤッシュが馬車を止める→馬車のおじさんがけげんな顔でヤッシュを見る→ヤッシュがひとことふたこと話す→馬車走り去る→ヤッシュ抗議のポーズ!

わたしたちがピラミッドに潜入すると決めた時点で、馬車で移動することは予定されていたことではないのか?それがなぜことごとく断られるのだろう?そもそもここでは「流しの馬車」はつかまらないのではないだろうか?だとしたらヤッシュは無意味なことをしていることになる。彼は何かあてがあってああやってチャレンジしているのだろうか?事情がまったくわからないので、そんなことをいろいろ詮索すればするほどヤッシュの抗議のポーズがおかしく思えるのだった。

やっとつかまえた馬車は、、

あっちの馬車で断られ、こっちの馬車でも断られる。いいかげんもうムリだとあきらめかけた時、1台の馬車がわたしたちの前で止まった。どうやら交渉が成立したらしい。ヤッシュがとても誇らしげに「さあ、これに乗って下さい」と言う。

ヤッシュにしてみればこうやって馬車を捕まえる時間もたった「1分」なんだろう。

おかしなことにその馬車は一番最初に断られた馬車だった。

       スフィンクスの背中が見える / カフラー王のピラミッドと馬車

馬車に乗ってスフィンクスへ

馬車には日よけの幌がある。走り始めると風も当たる。とっても快適だ。小走りする馬の蹄の音も何かアフリカの少数民族の打楽器のようで心地よい。

なにより馬車に乗って、ピラミッドの横を通り抜け、スフィンクスの背中から正面に回り込むなんて、最高の経験じゃないか。

ピラミッドに入るのに手間取って、馬車になかなか乗れなくて、それでも最後にこんなステキなできごとが待っていた。きっといつかどこかの町でロイとキャッシーとばったり再会しても、あの時はって、大笑いできるだろう。

旅も人生も何が幸いするかわからない。どんなハプニングやトラブルが起こっても、それは正しい、ということだ。

わたしたちを乗せた馬車は、風を切り蹄のリズムを青空に刻みながら、スフィンクス神殿へ向かって坂道を降りて行った。

スフィンクスと河岸新田

カフラー王のピラミッドを背景にスフィンクスをのぞむ。エジプトで最もフォトジェニックな場所だ。スフィンクスに向かって左手が河岸神殿

スフィンクスの建造時期

与那国島の海底遺跡調査などで知られるボストン大学の地質学者、ロバート・ショック博士は、1992年におこなった現地調査で、スフィンクスの建造時期は、紀元前7000年から1万年くらいまでさかのぼるべきだという意見を発表している。

博士はスフィンクスを囲む南側の壁に刻まれた縦縞の溝に着目し、この溝は長期間にわたる大量の雨水による浸食作用によって出来たものだと断定した。砂漠地帯であるギザ周辺に大量の雨が降る雨期があったのは、紀元前7000年~1万年前であり、スフィンクスがその時期に建造されたと仮定すれば、雨水による浸食跡の説明がつくと言うのだ。

だとしたらスフィンクスはギザの3大ピラミッドが建造されるよりさらに3000年~6000年も前に作られたことになる。しかしそもそも3大ピラミッドが現在定説とされている紀元前2500年前後に作られたとする明確な根拠は示されていない。

ピラミッドもスフィンクスと同じ時期、つまり7000年~1万年くらい前に建造されていたと考えるほうが自然ではないだろうか?

スフィンクスとリュウ