文明の最果てのメリークリスマス
「こんばんは、用意はいいですか?」
夕食の時間になり部屋の外に出るとマミーが自転車に乗って待っていた。
「わー自転車!どうしたの、それ?」
こどもたちが興奮しながら尋ねる。
「レセプションで貸してもらったんですよ、ここは敷地が広いから」
文明の最果てのメリークリスマス
いいな、いいな、と騒ぐこどもたちをかわりばんこに乗せながらゆっくり進むマミー。虫の音がさざめく残照の森の小道を、心地よい風に抱かれながらレストランへむかう。ああ、なんかこういうのいいね。誰も知ってる人のいない遠い国の、さらに果ての彼方の砂漠にあるオアシス。どんなに話しの上手な人に聞いても、どんなに文章の上手な人の本を読んでも、実際に来てみなければ想像できない感動がある。
マミーの自転車の乗せてもらうリュウ / レストランの様子 / テーブルに置かれた塩コショー入れ
あ、そういえば今日はクリスマスイブだ。
「日本では恋人たちの日なんだよ」
「マダガスカルでもそうですよ」
そうか、マミーはわたしたちのガイドで同行しているから、イブの夜も彼女に会えない。マミーの恋人はマダガスカルの外務省で働いているので、首都のアンタナナリブにいるのだ。
「ごめんね、マミー、わたしたちのせいで、、、」
「いいえ、ぜんぜんそんなことありませんよ、今回のガイドの仕事はわたしが自分で希望したんですから。わたしにとって今は恋人より仕事のほうが優先なんです」
おいおい、そんな事言って大丈夫?
でも明日の夜はタナに帰るから、マミーも彼女と会えるね。そう思うといくらか心が休まるのだった。
そう、明日の夜はアンタナナリブへ帰る。つまりクリスマスの夜には、マミーは彼女に会えるのだ。あとから考えるとこの時その一言を言っておけば、「え、タナに帰るのは明日ではなくあさっての夜ですよ」とマミーが反論し、どちらかが間違っているとに気づけたはずなのに。そしてこれから起きるあの悲劇を防げたかもしれないのに、、、
ベレンティーロッジの夕食は、保護区の入り口にあるレストランでいただく。
テーブルについて最初に前菜で運ばれてきたのは、ボイルされたロブスター。おお~、イキナリこんな大物ですかーー。ほのかな甘みがあるマヨネース風ソースが絶品で、ロブスターのうまみをひきたてている。
そしてサラダとスープのあとに運ばれてきたメインディッシュはローストポーク。こちらもソースがたまらなく美味しい。
つけあわせのポテトがこれまた「オレを殺す気か!」と怒鳴りたくなるほどのやばさ。しゃきしゃきしたイモの食感と、ふんわり揚げられたフライの衣が、しっかりした香りに包まれて何もそこまでと言うくらい調和している。いや~~マイッッタ!こんな鮮烈な味のポテトフライ食べたことがありません!冷凍ものではないポテトを使ったらこんな新鮮な味になるのだろうか?
デザートのパイナップルムース(マダガスカルはバニラ生産量世界一です)とロールケーキも秀逸で、文明の最果ての地でこんなに美味しい料理がいただけるんなんて、まったく信じられません。衝撃に腰を抜かすほどびっくりしながら、大満足のディナーをぺろっとたいらげた、クリスマスイブの夜だった。
ローストポーク / パイナップルムースとロールケーキ