モザンビーク海峡の夕焼け
消えた砂の回廊
イランジャの北側の浜に東屋がある。そこから北の島と、そこに続く海中の砂州を眺めることができる。ウミガメの孵化を見届けて、感動の余韻にひたりながら、わたしたちはその東屋にやって来た。ディナーまではまだ少し時間があるし、モザンビーク海峡に沈む夕日をのんびり眺めながら、ここで夕涼みしようと思ったのだ。
イスに腰を降ろし、向こうの島を見た時リュウが「さっき歩いた道がない!」と声をあげる。午後3時の引き潮のピークを境に、じょじょに潮が満ちて来て、夕刻のこの時間には、こどもたちと歩いた砂の回廊は、完全に海中に没して影も形も見えなくなっているのだ。東屋の先ですーっと海の中に消えてしまっている。
「おれたちが歩いた道はどうなったの?どこに消えたの?」
リュウがクエッションマークのかたまりになってる。こんな時がお勉強のチャンス!こどもが不思議がってその理由を知りたいと思ったときこそ、科学のうんちくを垂れてあげよう。
東京ディズニーランドも昔は
「それはね、潮の満ち引きと言って、パパが子供の頃、今の東京ディズニーランドがある場所も、潮が引くと陸が現れて、そこで潮干狩りなんかやって、、」
「ちょっとちょっと、ディズニーランドは今は関係ないでしょ、あなたの話しは前置きが長過ぎてこどもたちが退屈しちゃうじゃない。まず結論からしゃべりなさいよ」とママが口をはさむ。
「いいじゃん、せっかくこどもたちが聞く気になってるんだから」
今度はわたしとママの言い争いになって、結局潮の満ち引きに月の引力が影響してるなんて核心部分には触れられないまま、今宵の理科の勉強は終了したのでした。ってだめじゃぁ~ん!
砂の回廊は途中で海に消えていた
自然で健康的な暮らし
「あれ、たしか向こうの島には村もあったよね、灯りがぜんぜん点いていないよ」
今度はカイが、様子が少しおかしいことに気づき別の疑問を投げかける。
「それは単純なことだよ。あの島には電気もガスもないから、日が沈むと真っ暗になるんだ」
「そうかーー、こうして見ると人が住んでいるなんて思えないね。まるで無人島だ」
明るいうちに必要なことをして、暗くなったら寝る。自然で健康的で理想の暮らしじゃないか。
海鳥のダンス
それにしてもなんて美しい夕焼けなんだろう!
旅行に来ると、普段できないことにゆっくり時間をかけられる。朝食をゆっくりいただくことも、そのひとつ。
もうひとつは、夕焼けをぼ~~っと眺めること。夕暮れ時なんて、買い物から夕食の準備からこどもたちの風呂とか、1日で一番忙しい時間帯(ママの談)で、のんびり夕日を眺めるなんてとてもできません。だからこうしてゆったり夕日を眺めていると、ああ、本当に旅行に来てるんだー、としみじみ思うのだった。
海中に消える砂州の先端で、羽を休めていた海鳥の群れが、一陣の風にさーっと舞い上がる。
しばらく夕暮れの光の中で踊ったのち、残照に輝く西の空へ飛び去っていった。